正月、そして圧倒的な暴力


時計の針は深夜26時半を示している。少年はそっとベッドから抜け出す。
肩から望遠鏡をぶら下げ、両親を起こさないように、慎重に玄関の鍵をはずし、外に出る。


「27時に、小学校の校庭に集合な」という友人との約束。
今日は一番の友人と一緒に、夜空を見るんだ。天気は晴れ、満月の夜だ。


自転車に乗り、校庭までたどり着くと友人はすでに望遠鏡の準備に取り掛かっていた。


「おそかったね。みろよ、今日は絶好の天体観測日和だぜ」


友人はうれしそうに言う。僕も早速望遠鏡をケースから取り出し、三脚をセットする。


「・・ん・・あれ・・、なんだ、あれ」


という友人の声が聞こえる。僕はレンズを調整する手を止めた。


「どうかしたの?」
「ちょっと空を見てみなよ・・あの月・・」
僕は夜空を見上げる。
いつもと変わらぬ、澄み切った冬の夜空だ。そう、満月の夜空・・



無数の星空の中に月はいない。いや、正確に言えば月は、ある。満月だ。
だが、僕の眼に映りこむ満月はあまりにも巨大すぎた。
それは、あまりにも異様な光景であり、その過剰な巨大さは、僕にある種の暴力性を感じさせる。


「ちがう、これは間違った月だ!こんな月は存在してはいけない!!!」


僕は無意識に声を上げる。ちがう、これは何かの間違いだ。これはあってはならない事実だ。


気が付くと、隣にいたはずの友人の姿がない。僕はまわりを見渡す。しかし友人の姿はない。
足元になにか白いものが見える。手紙だ。


それは、ノートの切れ端か何かを4つに折りたたんだだけの、手紙というには乱暴な代物であったが
手紙に他ならなかった。僕は折りたたまれた手紙(あるいは意思を持つ紙片)を広げる。


そこには短い文章が書かれていた。


"キミは夜空に浮かぶ巨大な月を見て、これは間違った月だ、と言った。でも、間違った月って一体なんだ?正しい月って何だ?"


正しい月。1月1日。お年玉。ああ、年賀状。


そして巨大な月。